町医者のユンタク室(2)

harukaの今宵もハッスルnight!でしゃべったハート話の第二弾です。

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『町医者のユンタク室』(2)

 キャリアウーマンとしてインテリアデザインの実務をこなしながら、沖縄県にインテリアデザイン学院を開設するという夢に向かって、週1回名古屋の専門学校へ飛行機で往復するというハードスケジュールをこなす従妹がいた。私の友人の産婦人科医も開業するとき、彼女にインテリアデザインを担当してもらって開院した。薄いピンク色を基調として、女性的な安らぎを与えるインテリアデザインであった。忙しい彼女は頭痛が持病で、日頃から市販の頭痛薬をほとんど毎日飲んでいたようで、周りの人から「一度病院へ行って精密検査も受けて、ちゃんとした薬を飲む方がいいよ。」と言われても、「病院へ行けば3時間も待たされるし、忙しいからこの市販薬でいいのよ。」と言っていたという。その彼女が3年前に脳出血で倒れた。普段、血圧は高くなかったとのことであるが、仕事のストレスはかなりあったため、職場高血圧であったことは否めない。彼女が頭痛を訴えて公立病院へ入院して頭部CTを撮ったとき、小さな脳出血であったため、安静にして止血剤を投与して様子観察すれば出血も止まってやがて吸収されて治るものと思われた。しかし、徐々に意識障害が進行して昏睡状態に陥ってきたため、急遽頭部CTを再検したところ脳出血が拡大し脳ヘルニアの状態になりつつあることが判明し、緊急手術が行われたのであった。開頭手術が行われて出血部の止血に入ったのに脳内の出血部が電気凝固で焼灼しても出血が止まらない。一生懸命に止血操作を行うも血液が凝固しないため止血しない。結局はあきらめざるを得ず、そのまま帰らぬ人となってしまった。血小板凝集抑制作用のあるこの頭痛薬を毎日服用していたことがわかったのは手術のあとであった。この市販薬は医師が脳梗塞や心筋梗塞などのあとに血小板凝集抑制を目的にして処方するときの量の3倍半の量であり、決して常用してはいけない薬で、頭痛がひどい時だけに屯服で飲むものである。やはり医師に診てもらって、ちゃんとした薬を服用すべきであった。素人判断は怖いものである。

 ところで、3時間という待ち時間は長いだろうか?月に1回、かかりつけの医院を受診する、この1ヶ月の中の3時間、720時間中の3時間、1ヶ月の0.4%の時間、これを惜しんだために、もう手の届くところまで来ていた夢の実現を目前にして、命を落としてしまったと考えると無念でならない。





 私をかかりつけ医にしてくれている患者さんは待ち時間のクレームは一切言わない。初診の時に30分以上かけて、病気の詳しい説明となぜ薬が必要なのか、薬の主作用副作用の話など本人が納得するまで説明している。ある患者さんは「先生、私、こんなに詳しく話してもらったことありませんでした。薬をのむのがいやでたまらず、あっちこっちと回っていましたが、今の説明でやっと納得できました。これからはちゃんと薬を飲むことにします。先生のお話を聞いているとチャングムと話しているみたいです。これからもよろしくお願いします。」と納得してくれた。午前と午後の間の昼休みは、食事もとらずにカテーテル検査に入ることが多いが、ある日検査中に、外来看護師から連絡があり、「先生、♥♥♥さんが外来に来ているのですが、何時間でも待ちますから検査が終わられたら診てください、と言っています。」と言ってきた。逆に、ある患者さんはユンタク室へ入ってくるなり「ここはいい病院だと友人に勧められて来たのに3時間も待たされました。」とクレームを訴えられ、「すみません。長い時間のかかる患者さんが今日は多いものですから・・・」と弁解はしたものの、「こんなに待たされるのなら、もう二度と来ません。」と言われ、二度と来なかった。





 私と信頼関係ができた患者さんは、長く待たされても「先生、今日は何時間も待たされました。」とは言わず、「先生、今日はお忙しいんですね。」と逆にこちらを気づかってくれる。そして、「今日は他の患者さんも多いですから私は早々に退散しましょうね。また、来月おあいしましょう。」と2~3分で退室してくれる患者さんもいる。『待たされました』という自分中心の言葉に対して『お忙しいんですね』と相手を気づかって、相手の立場になってかけてくれる言葉は、診る医者にとって、本当にうれしいものだ。ある日、次の患者さんを呼んでも入ってこない。2回呼び出しても入ってこない。カルテの予診時間を見てみるともう3時間待たせていた。「きっと、かんかんに怒っているだろうな。」と思いつつ、看護師に「待合室の♥♥♥さんを呼んで来てください。」と頼んだところ、しばらくして入ってきた。謝りの言葉をかけようとしたら、患者さんの方から「今日は、おもしろい本を持参していて、待っている間読んでいたら、あまりにも面白くて読むのに熱中してしまい、先生に呼び出されていることに全く気付きませんでした。 すみません。」と逆に謝られた。その時思った。「ふだん、ゆっくりと本を読む時間もない患者さんは、待っている時間を利用して、読みたいおもしろい本を読まれるとどうだろうか。『待ち時間』が『待たされ時間』ではなく、『もうちょっと待たしてください時間』になるのではないだろうか」と。

 すべての患者さんが待ち時間を気にせず、気楽に楽しく、安心して受診してくれることを願って、今日もせっせと患者さんとユンタクしている町医者である。
                                     (あなたの町医者:ちぃさん)



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